髪も心もセットする、パリの美容師 Stéphane Billot ステファン・ビヨ

今回は、美容師として活躍するステファンにインタビューしました。手先が器用で、かつらや髪飾りを使ってどんなヘアスタイルも実現できるステファン。 彼が美容師となり、パリにヘアサロンを持つに至った経緯を聞きました。

メル氏:ステファンはどこの出身?

ステファン:フランスの北の方にあるピカルディ―、アミアンの近くのアムという町で育ったんだよ。

メル氏:美容師になったきっかけは?

ステファン:幼い時、母についていった美容院で、美しいシニオンやヘアセットにうっとりしていたんだ。5歳半の時には将来美容師になるって決めていたんだよ。

中学校に行くまでは、周囲も「美容師になりたんだね!」って応援してくれていた。

メル氏:あれ?中学の時に何かあったの?

ステファン:僕は結構勉強ができたから、中学校の先生が「ここで学業を止めて美容師になるのは勿体ない。」って言ったんだ。美容師になるのは特別な学歴が必要ないから、今は学業が続けられるならば続けておいた方がいい、高校を出て、それから考えればいいじゃないかって。

何だかんだ言ってフランスは、専門的な手仕事を学ぶより、学業を修めて、デスクワークをするように若者に勧める傾向がある。今もそうだよ。

で、僕は先生の言うことを、素直に聞いちゃったんだ。

メル氏:なるほど。どこも一緒だね。

ステファン:高校を出てからは、大学で英語を専門的に勉強し始めた。

メル氏:幼いころからの夢だった美容師とは違う進路に葛藤はなかったの?

ステファン:実はその時期は美容師のことは完全に忘れていたよ。
長所か短所か分からないけれど、僕は元々、切り替えが早いタイプなんだ。
今がその時じゃない、それは今やるべきではないと思ったら、一旦きれいさっぱり忘れることができるんだ。
その時は本気で、英語の先生になるのも悪くないな、と思っていたんだ。

メル氏:羨ましいなぁ。ところで何で英語だったの?

ステファン:12歳ぐらいから英語を勉強していたし、得意だったんだ。英語を教えてくれた先生が素晴らしくて、お蔭で英語が大好きになった。デビッド・ボウイが好きで彼の歌を覚えて歌っていたし、夏休みには両親がイギリス滞在をさせてくれた。イギリスの空気がすごく肌に馴染んで将来はイギリスに住むことも夢見ていたよ。

両親は、リールにあるとても良い私立の大学に行かせてくれたんだ。
文法、アングロサクソンの国の歴史や英文学、発音、第二、第三外国語。どの授業も素晴らしかった。
ただ、レベルが高かったし、課題も多くて大変だった。何度か二年生を終えて翻訳などができる資格が取れたところで、一端区切りを付けたんだ。周りはここで辞めるのは残念だといったけれど、自分は精一杯やったからいいやって思った。

21歳の時に実家に戻って、少し工場で仕事した後、10か月の兵役に行ったんだ。

メル氏:お??兵役??

ステファン:そうそう。当時は義務だったんだよ。学校に行っている間は、兵役を先延ばしにできるんだけど、僕は学校をやめたから行かなきゃいけなくなっちゃったんだ。健康状態をごまかしたりして、行かずに済ませた友人もけっこう居たけど、僕は嘘が上手じゃなくてね。
海軍に行きたかったけど一番厳しいと噂の陸軍に回されてしまった。

*フランスでは2002年まで、市民に兵役の義務があった。

メル氏:わぁ、それは大変!

ステファン:僕は大学を出ていたから、幸い事務に配属されたよ。
それでも最初の一か月は、武器の使い方を勉強したり、2人一組でテントで野営したり、実戦的な訓練もした。
6人部屋で一緒に過ごした仲間とは仲良くなって、カレンダーで残りの日を数えて兵役が終わるのを皆で心待ちにしていたよ。

兵役期間中にいち早くコンピューターの扱い方を学んだのは大きなことだったね。
携帯電話もあったけど、まだ超巨大だったよ。(笑)

悪いことばっかりじゃ無かったけど、、、義務じゃ無ければ 今思い返してもやっぱり行きたくなかったな。

メル氏:兵役から戻ってからは、どうしたの?

ステファン:とにかく早く経済的に自立したいと思っていたから、実家を出てアミアンで一人暮らしを始めた。しばらく公立の先生の補助をするアルバイトをしたり、社会人に英語を教える機会もあった。
社会人の英語クラスは、職業訓練のような側面があったから、皆が語学に興味がある訳ではない。英語に興味が無い人に英語を教えるのは本当に簡単じゃないんだ。
自分が英語の教師としてやっていけるか確信がなくなった。
契約期間が終了して、求職活動することになった。

そんな時に友人が「ホテルのフロントで外国語が堪能な人を探しているけど興味がある?」と声をかけられたのがきっかけで、アミアンにある3つ星ホテルで2年半仕事した。
アミアンってパリから意外に近いから、週末に遊びに行っているうちに次第にパリに惹かれて住みたくなっていったんだ。
パリの中心にある4つ星ホテルに職を見つけて、パリへ出てきた。
高級ホテルでの仕事はとても刺激的でよい経験だった。

2006年に今の恋人に出会ったんだけど、たまたまその恋人がイギリスの大学で一年勉強する計画をしていたんだ。
「ずっとから憧れていたイギリスでの生活、そして好きな人と過ごす時間を両方手に入れるチャンス!!」と思って、僕はホテルでの仕事を止めて付いていったんだ。

イギリス滞在中はケンブリッジでホテルのレセプションの仕事を見つけて週4日働いた。英語に囲まれてほぼバイリンガルになれたよ。

その後フランスに戻って、6年間の続けたホテル業界での仕事にも区切りを付けようと考え始めた。
仕事は好きだったけれど、就業時間によって生活リズムが乱れがちだし、大きな高級ホテルになるほど、職員の数も多くなって、自分で決めることや工夫する機会も無くなってしまう。没個性だよ。
自分は30歳。この仕事を一生していくのは何か違うな、と思った。

何か手先を動かすクリエイティブなことをしたいと思った。もちろん最初に美容師が頭に浮かんだ。突然そんなこと言っても周囲に真剣に受け取ってもらえないかと思ったから、一旦ホテルで働きながら書類を準備して、専門機関から補助を受けて、1年間、専門学校に通う手筈を整えたんだ。

メル氏:美容師への情熱、再燃だね。

ステファン:専門学校での勉強は忙しかった。午前中は授業、午後は実習。
テレビの現場でヘアメイクのインターンシップをしたり、ヘアサロンで研修もした。

ところが学校から出てから、31歳、美容師としての職歴無しでヘアサロンを探すのは簡単ではなかった。
飛び込みで仕事が無いか聞いて回ったり、求人を見たりして、情報を探した。「君に教える美容師が、君より年下だから無理」っていう納得いかない理由で断られることもあったし、
一週間試用期間として無料で働いて、結局職を得られないこともあった。
何か月も探して挫けそうになったよ。

そんな中、僕がこの仕事に熱意を持っているのを見て、チャンスをくれたサロンのオーナーが居たんだ。マリー・ポールっていうんだ。
そこで7年間働いた。たくさんの事を学んだし、彼女はその間に独立する資格を取得する為に勉強することも応援してくれた。

マリー・ポールのところで働いていた後、美容“かつら”を作る勉強をした。
いずれは独立するつもりだったから、その前に自分の強みになる、特殊な技術を勉強しておきたかった。一度独立したら時間が無いのはわかっていたからね。
40歳で学校に戻って、“美容師、髪飾り、かつら”という専門的な卒業資格を得たんだよ。

メル氏:何でかつらに興味があったの?

ステファン:髪のテクスチャーが好きなんだ。もともと好きだった裁縫に似ているところもあるし。

映画も雑誌のモデルさんも、一見わからないけれどカツラを付けていることが多いんだよ!

(サロンに置いてある雑誌を見せながら)「これも、これもカツラだよ。」

メル氏:え!そう言われてから見てもわからない!

ステファン: 自然の髪の流れや生え際を本物そっくりに仕上げることが求められるから、手先の器用さ、忍耐強さも求められる。
こういった手仕事をする人はどんどん減っているから、消えゆく職業でもあるんだ。僕も研修先を探すのに苦労したなぁ。
有名な演劇(コメディー・フランセーズ)の舞台用のカツラを作るアトリエにも行ったよ。でも、人間関係の範囲が狭い中でポストを争う、ものすごく閉鎖的な場所だったんだ。
そんな経験もあって、専門的にかつらの制作に携わるよりも、まずは独立して自分のサロンを開くことに集中しようと決めた。かつらや髪飾りはサロンのサービスが発展していく先で徐々にサービスに加えて行ければいいな、って思っている。

メル氏:この仕事で好きなことは?

ステファン:人を美しくできること。

そして僕は美容師としてお客さんとミュニケーションとる事が好きなんだ。
美容師って、他の接客業と違って、お客さんに直接触るから、 シャンプーから初めて、髪を切る時、スタイリングをする時、お客さんの気分を丸ごと感じるられるんだ。
お客さんの頭に触った瞬間に、「お客さんが自分を信頼してリラックスしてこちらに委ねる」感覚がある。

有名な美容師、ジャック・デサンジュが 「髪も心もセットする」(*Je recoiffe le moral.)という表現を使ったのだけれど、とても共感するよ。
神秘的だけどとても的を得た表現だと思う。

メル氏:この仕事で難しいと思うことは?

ステファン:忙しい今の世の中では、消費者がすぐにすべて欲しがる。皆、「すぐに」サービスを受けること慣れているし、それが当然だと思っている。
僕は一人で仕事をしているから、  お客さんにきちんと予約をしてからお店に来てもらうよう、丁寧に説明する努力をしている。

メル氏:急に来たお客さんを受け入れることはあるの?

ステファン:開店当初はそういうことも可能だったけれど、最近、特に週末は予約が埋まっているから難しいなぁ。

メル氏:ホテルで仕事した経験で、今の仕事で一番生きていることは?

ステファン:僕は幸いホテルで働いていた時に、上質なサービスというものを体で学ぶことができた。おかけで自分が提供すべきサービスの質を認識できるし、それを維持する為には丁寧に時間をかける。

僕の願いは、最後にサロンを出る時、お客さんに笑顔になっていてほしいということ。

最近では子ども、両親、祖父母の家族3代来で来てくれる家族も居て、嬉しいな。

メル氏:これからの目標は?

ステファン:サロンを大きくすることは目標ではないんだ。
もちろん新しいお客さんに出会いたいし、かつらとか髪飾りとか、自分の特技を生かしたサービスも徐々に加えていけたらいいけれど、、、
お客さんに「このサロンの空間が自分の為にある」っていう感覚を持ってもらい続けたいからね。
サービスの質を維持して、発展していく自分自身の等身大であればいいと思う。

メル氏:ありがとうステファン!旅行者が来ても大丈夫?

ステファン:うん、もちろん!

インタビュー後記
幼いころから美容師に憧れていたステファンが、周囲の大人の教育への考えの影響を受けて一度は別の道に進んだり、兵役に行った話は、とても興味深く、現在の彼の専門と直接は関係なくても、是非本文で紹介したいと思いました。
始めの彼は、将来の為と割り切って語学を勉強したり、ホテルで仕事をしたり、器用で柔軟性のある印象です。しかし、人生を捧げる仕事として幼いころからの夢だった美容師を選んだ現在の彼からは、非常に実直で情熱的な印象を受けます。
大切なこと、人生に向き合う時は、器用でなくても、物分かり良くなくても大丈夫。と、勇気をもらいました。
ありがとう、ステファン!Merci beaucoup, Stéphane!

ステファンのヘアサロン Au Bonheur des Cheveux (オウ・ボナー・デ・シュヴ フランス語で“髪の幸せ”の意味。)

20 Rue de l’Estrapade, 75005 Paris フランス
電話番号 +33 (0)1 43 54 59 94 (英語可、要予約)

営業時間: 
月曜日12時00分~19時00分
火曜日9時30分~19時30分
水曜日9時30分~19時30分
木曜日11時30分~21時30分
金曜日9時30分~19時30分
土曜日9時00分~16時00分
(日曜日定休日)
Facebook
https://www.facebook.com/aubonheur.descheveux.31

彼のサロンはパリの中心部の便利な場所にあります、旅行で立ち寄られる方も、是非、彼の心の籠ったカットやスタイリングを受けてみてください。