自分・他者・社会。舞台俳優 Yves Comeliau イヴ・コメリオウ

イヴは、舞台俳優で、現在は”人々の交ざり合い”をテーマに、様々なバックグラウンドを持つ人達に演劇を教えるアソシエーション(非営利組織)を運営しています。どうして彼が演劇に興味を持ち、アソシエーションを立ち上げるに至ったのか話を聞きました。

メル氏:イヴはどこ出身なの?

イヴ:ベルギーのナミュールという町で生まれ育って、21歳の時に演劇の学校で勉強をする為にパリへ出てきたんだよ。

メル氏:ベルギーの人だったんだね!知らなかった!!

イヴ:と言っても、ベルギーは隣の国だし、僕の母国語はフランス語だよ。

メル氏:イヴは、どうして演劇に興味を持ったの?

イヴ:当時は若かったから「生きている意味」「物事の本質」みたいなものを深く考えていくのに、手段がほしかったんだ。演劇をする時って、物の意味、存在とか、いつもたくさんの考察をするから、ちょっと哲学みたいなどころがあるんだよね。それに、演劇には頭だけではなくて肉体や空間も関わってくるから、「生きている」って感覚があって、そこに惹かれたんだ。

実際に演劇を始めてからは、“存在”“気配”などが自分の興味の中心だよ。  
2つのものが物体、肉体が存在すれば必ずその間に何らかの響き合いが生まれる。たとえば地下鉄でもどこでも複数人が居ればその間でエネルギー、色、イメージ、温度などの交換が起こっている。目に見えなくても、そこにあるんだ。

メル氏:イヴは現在、アソシエーションを立ち上げて色々な人に演劇を体験する場を与えているよね。そこへ辿り着くまで、どんなことをしてきたの?

イヴ:僕の場合はすこしイレギュラーだよ。

学校を出て、演劇をしていたんだんだけど29歳で行き詰まりを感じて、一端、完全にやめたんだ。結果を出すのは難しかったし、幸せに感じられなかったから。その後、音響の勉強をして、映画の制作現場で音の仕事をしていたんだ。
20年ぐらい経って、、、突然、映画の現場での仕事に物足りなさを感じ始めた。もちろん映画自体は素晴らしいものだけれど、現場の技術スタッフとしての仕事は、人間や感情といったものへの関わり方が限定的だった。つまり、僕の代わりなんて、簡単に見つかると感じたんだ。
創造、表現することが恋しくなった。

ちょうど同じ頃、僕は核エネルギー反対の活動に参加していたんだけど、デモの時に仲間達とピエロに扮してメッセージを訴える機会があって、「僕はこういうことがしたかったんだ。デモの為ではなくて純粋に演じることをしたい。」と気付いたんだ。
その体験が演劇に戻る直接のきっかけになった。色々な準備をして、2014年に僕は完全に演劇の世界に戻ってきたんだ。
演劇で食べていこうと思って、大学で一年間、演劇の教室を開くための勉強をして、2016年に自分のアソシエーションを立ち上げたんだよ。

メル氏:イヴのアソシエーションの活動って、どんなもの?

イヴ:ぼくのアソシエーションでは、演劇に興味がある大人達や、発達にハンディキャップを持っている人に教えている。
“mixité”(交ざり合うこと)をテーマに多様な世代の人々、様々なバックグラウンドを持つ人々がグループでお互いに関わりながら学んでいく場所を作りたいんだ。
一番象徴的なのは、ハンディキャップがある人と、無い人の混合クラスだよ。

メル氏:どうして様々な人を交ぜたクラスにしようと思うの?

イヴ:教室を開く勉強していた期間に、実際にハンディキャップのある人の演劇教室にに関わる機会があって、その時に興味を持ったんだ。
そこではハンディキャップを持った人達の社会参加について色々話し合っていた。けれど彼らが実際に提案している活動はすべてハンディキャップを持った人”だけ”に向けたものだった。
でも僕はハンデキャップを持った人と持っていない人が一緒に活動してこそ、社会に彼らの居場所が作られると思ったんだ。

*イヴが関わるハンディキャップを持った人というのは、知能的な発達が遅れ、1人では大人としての社会生活を営めない人。精神病や自閉症とは違う。

メル氏:この仕事のいいところは?

イヴ:グループの参加者は双方ともに得るものがある。参加者同士の距離が近くなって、しだいに意志、自主性をもったグループに変化しているのを見るのはいいものだ。
僕自身が教室の前にとても疲れていても、教室を終えると前向きなエネルギーをもらって、元気になっているよ。

そして何よりこの仕事をするようになってから、周囲の人間が素晴らしい人ばかりだ。正直で自分のことばかりを考えずに他人の為に何かをすること、分かち合うことを知っている。
そういう人と関われることをとても幸せだと思うし、こういった「皆で」「他の人々の中で生かされている」と言った考え方は、これからの難しい世の中を生き抜いていくのに、誰にとっても必要になってくる。

メル氏:現在の活動の難しいところは?

イヴ:経済的な部分。 僕らの活動は色々な価値を生み出しているけれど、  “収益ばかり重視されている現在の世の中”で、金銭的利益として結果が出ない活動にに実際に出資を得るのはとても難しい。公的な予算も減っている。(そのせいで潰れたアソシエーションもある。)人々はもっと金銭に換算できないものの価値に気づくべきだ。
自分のアソシエーションを存続させることは、そのための戦いでもある。

メル氏:これからどうしていきたい?

イヴ:他のプロフェッショナルと協力し合って、アソシエーションの活動の幅を広げていきたい。地域の様々な人に活動を知ってもらって、組織、劇場も巻き込んで、もっと僕らの活動を根付かせたい。
混合クラスに関しては、1~2年後に本当の演劇の舞台を実現させたい。(現在は15分程度の小さな劇を計画中)。
僕らはこれまで質の高い活動をして来たと思うから、今度はそれを周囲に知ってもらうことに力を入れたい。

メル氏:アソシエーションはイヴの生活の何パーセント?

イヴ:100%。確かに、色々なものがそれ中心に回っている。
少しの私生活はあるけどね。笑。
肉体的にも精神的にもとてもハードで疲れ切ることもある。

メル氏:疲れた時にエネルギーをくれるのは?

イヴ:“他”、“他者”。他の人との出会い、関わりが自分のエネルギーなんだ。

人と関わっていると、何かを与えていると同時に自分も与えられている。

有名な映画監督タルコフスキーが「あなたの表現はどこからきているんですか?」と聞かれて、「他(ほか)からもってきたんだ。自分1人の中からこんなに色々出て来る訳ないじゃないか」って言ったんだよ。
彼は表現の為に“他”を利用しているという意味だけれど、皆、生きていくために“他”から得るものが必要なんだよ。これを今の自分は何より強く確信している。

メル氏:ありがとう!

イヴのアソシエーション/ Les Ateliers de Belacqua   (レ・アトリエ・ド・ベラックア)のホームページはこちら。
https://www.lesateliersdebelacqua.fr/

インタビュー後記
イヴとは3年前、彼のアソシエーションのロゴマークを作る仕事をした時に知り合いました。物静かだけれど、当時、団体の立ち上げにとても情熱的に向き合っている姿がとても印象的でした。
イヴは、自分の為に演じることを始めて、他者、社会へと時間、経験と共に自分の立ち位置が変わっていきます。今の彼にとって、全ては必要だったキャリアと時間。彼のストーリーは「じゃあ私も頑張ろう」「立派な心掛けだ」と、安易に他人に思わせる類のものではありません。だからこそ、とても心惹かれました! ありがとう、イヴ。体に気を付けてアソシエーションの仕事頑張ってね! Merci beaucoup, Yves!